紗磋茶の日記 -回顧録-

俺の屍を超えてゆけR版のプレイ記録。

幕間 1017年?月、1018年5月

*灯栖様と宇佐ノ茶々丸様の交神の話。

*宇佐ノ茶々丸様と冒頭の天の声についての捏造が大いにあります。

 

 

1017年?月 その朱を分かつ

「...こども?」

「ええ、そうです。あなたは人と交わり子をなすことはできない。ですから代わりに、私たち神と交わり、子を成し、その血を繋ぐのです。」

 

 子どもを作りなさい、と。あの方は私にそう言った。子ども。こども?頭がうまくまわらない。足元のおぼつかない暗い場所。自分がなんの上に立っているのかもよくわからない。周りの景色は、星空、というものに似ている気がした。

 こどもってなんだ。こどもってどうやったらできるんだろう。違う、違うの。その前に。

 

「私には、呪いがかけられているって、言ってましたよね。その、種絶の呪いの他にも、短命の呪いって」

「ええ、朱点童子があなたに刻んだ二つの呪いです」

「私、の、こどもができたら、その子は?その子はどうなるんですか?」

「朱点童子の呪いはあなたの血に刻まれたもの。朱点童子を倒すその日まで、あなたの子々孫々に脈々と継がれることになるでしょう」

 

 声は、淡々と事実を述べていく。当たり前のように言う。「呪い」も「子ども」もまだ理解しきれないもやのかかった頭が、それでも拒否の気持ちだけは強く主張してきて、強張った口に、必死に言葉を紡がせる。

 

「じゃあ、じゃあ......私が、私1人で、朱点童子を倒しに行っちゃだめですか」

「あなた1人で?」

「そうです、だって、その呪いのこと、まだよくわからないけど、辛いものなんですよね?苦しいことなんですよね?それを、誰かに継がなきゃいけないなんて、い、嫌です。だったら、私1人の命で最後まで」

「あなた1人に何ができるというのです」

 

 声は冷酷に言い放つ。語気を荒げるでもなく、声音にさしたる変化もなく、ただ冷たく、私の声を押し流す。

 

「あなたの、両親の話をしましたね。あなたの両親は勇敢な武士だった。彼らは2人で果敢に朱点童子に挑み、そして敗北しました。あなたの両親が2人がかりで成し遂げられなかったことを、どうしてあなた1人に成し得ましょう。1人で挑んでどうするのです?おめおめと殺されに行くのですか?あなたの両親が必死に守った、あなたの命だというのに」

 

 言葉が出ない。言葉を返せない。私は父の顔も母の顔も知らない。ただ、2人のその最期だけは、その日私を救い出したというこの人から、何度もなんども聞かされた。母が、私を抱く感触だけ、まだどこかに残っているような気がする。

行き場を失った声の代わりに、手が着物の袖を握りしめる。

 

「朱点童子打倒は、私たち神の望みであると同時に、あなたの両親の悲願でもあります。あなたもまた、その達成を願うのなら、神の手を取り、その血に願いを託すのです。あなたには勇者の血が流れている。神の力を取り込むことで、いつかきっと、朱点童子を討ち果たす日が来るでしょう。」

 だから、最初の子を成しなさい。この生を全うするために。

 

 

 もはや選ぶ余地はない。

 ぼやけた視界の中で、辛うじて、私の悲嘆とは正反対の笑みを見た。無意識にそちらへ伸ばした手を、すくい上げて彼は言う。

 

 

「はじめまして。おいらがお相手しまーす」

 

 

そうしてあらわれたのはかすかな光。私を照らす、暖かな光。

 

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こども





 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1018年5月 風よ吹け

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「やあ、お久しぶりですね!またおいらを選んでもらえるなんて、光栄だなあ」

 

 5ヶ月前と寸分違わず同じ姿、同じ笑顔で、彼は私に手を差し出した。大きな耳がふわふわと揺れる。

 ここは天界、宇佐ノ茶々丸様の居住区。交神する相手を選ぶと、イツ花が天界を仲介して、相手の元に送ってくれるらしい。

初めての時とはまた勝手が違い、入り口らしき場所に所在無げに佇んでいた私を、茶々丸様は特段驚きもせずに迎えてくれた。

 

「なんだか大人っぽくなりましたねー。あの子は元気?名は維勢丸と言うんでしたっけ、いい名前ですねえ。背丈はどれくらい伸びたかなあ」

「まだ私よりは少し小さいくらい、だけどきっとすぐ私の背丈も茶々丸様の背丈も抜かしますよ」

「大きくなりそうな顔でしたもんね、ちょ〜っといかつい感じの」

「でも優しくて穏やかないい子ですよ」

 

 ニコニコとした表情を崩さずに、彼の口はよく回る。

 維勢丸の話が出て、少し緊張が解れたのを感じる。私も、維勢丸も、この数ヶ月で背丈やら何やら変わったというのに、天界に住む彼らはこれっぽっちも変化がない。だからなんだか、現実があやふやになってしまって、怖くなった。けれどやはり、この人はあの時の、維勢丸の父になってくれた方だ。

そして、私の2人目の子どもの父になってもらう人だ。

 

「そりゃあ灯栖さんの子どもだもの、優しい子に違いないですよ」

「...そんなの、わかるものですか?」

「わかりますよ。前回、あんな駄々をこねてた人の子どもですもん」

 

 つい尖った言い方になってしまった私を気にすることなく、彼は朗らかに言葉を紡ぐ。茶々丸様は、子を残したくないと泣いた私を知っている。それでも逃げ道などなく、仕方なしに伸ばした手を、茶々丸様が取ってくれた。気の抜けるような満面の笑みで。

 

 

「今度は、もう躊躇ってはいないんですか?」

 

 茶々丸様は私の顔から目を逸らさない。穏やかな表情も変わらない。

 

「もう、選べないことはわかってますから」

 

 私は、茶々丸様の目を見返すことはできなくて、うつむきがちに答える。

 躊躇う気持ちは消えるはずがない。この呪われた血を分けることを、どうして躊躇わずにいられようか。維勢丸に出会って、共に過ごして、子どもという存在がどれほど愛おしいものなのか知ったから、むしろこの気持ちは強くなる一方だ。

それでももう、私は1人ではないのだから。維勢丸と共に生きる道を選ばなければならないのだから、少しでも、未来を考えて行動しなければならない。

 

 「あはは、灯栖さんは真面目ですね。ひとまず、交神のことは承りました。この後はどうします?天界を案内でもします?」

「いえ、屋敷に戻ります。ええっと...月の終わりに、もう一度ここに来たらいいんですよね?」

「そうそう!イツ花ちゃんの舞を見ながら、一緒にぎゅーっと念じれば子どもの誕生!それまでは維勢丸とゆっくりしてきてください」

 「...本当に軽い人ですね」

「ちゃんとおつとめは果たしますよー」

 

 茶々丸様の声も表情も、風のように軽いから、こちらもついつい神様相手に呆れ顔で呟いてしまう。それでも彼は意に介さずに笑っているから、いよいよ眉間の皺も肩の力も抜けてしまうのだ。

 

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「それじゃあ、また月末にー」

「はい、失礼します」

 

 

  ぺこりと会釈をして、私は元の出入り口に戻っていった。ニコニコと手を振る茶々丸様が、転送される直前の視界に映る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ灯栖さん、手を握って、ぎゅーっと目を瞑って、しーっかり念じてください」

「はい、わかってますよ」

 

 維勢丸とイツ花と一緒に、穏やかなひと月を過ごした5月の終わり。私は再び天界の茶々丸様の元に来ていた。

 この後の手順はあの時と同じ。茶々丸様と向かい合って、互いに手を握り、目を瞑って願いを込める。地上と天界を繋ぐイツ花の舞が添えられて、この交神の儀は完成する。

 

 茶々丸様と交互に手を重ね合わせて、そっと目を閉じた。人とは違う、少し小さくて丸い手から、じんわりと温もりが伝わってきて、神と言えど生きてるんだなと、ぼんやり思った。瞳を閉じていてもイツ花の舞を近くに感じて、自然と周囲の神気が高まっていくのがわかる。

 茶々丸様の温もりを感じるそこに、力を込める。精神を集中させる。

 

 命を、願う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 張り詰めた頭の中に、ふわりと、風が流れた。おかっぱ頭の、少し釣り目の子が笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を開けると、私と茶々丸様の少し上で、光が集まりながらだんだんと幼子の形になっていくのが見える。茶々丸様の手がするりと離れた。ゆっくりと降りてくるその赤ん坊を、落とさないように、壊さないように抱きとめた。赤ん坊が産声を上げる。

 

「ふふ、かわいらしいねー」

「...ええ、本当に」

「素敵な笑顔だったなー。きっと、灯栖さんと維勢丸の日常をもーっと明るくしてくれる子になりますよ」

 

 赤ん坊の額の丸い印を、指でそっと撫でる。ああ、また一つ分けてしまった。あまりにも忌まわしい、呪いの証。それが埋まったこの赤子が、それでも愛おしくて仕方がないのだ。

 儀式の最中に頭に浮かぶのは、子どもの未来の姿らしい。中性的な顔立ちで、女の子か男の子か一瞬ではよくわからなかったけれど、あの笑顔なら随分快活な子になるのだろう。

 

「まあ〜可愛いらしいですね‼︎きっと灯栖様似の美人さんになりますよ」

 

舞を終えたイツ花が寄ってきて、そっと赤子の顔を覗き込む。

 

「それじゃあ、この子はおいらが預かりますね」

 

 茶々丸様が、そっと私の腕から赤ん坊を引き取った。

 

「ええ、お願いします。...あの、あんまり高級なものばかり食べさせないでくださいね。干しアワビとか」

「あれ、もしかして維勢丸、干しアワビ気に入っちゃいました?お裾分けでもらったやつを一回食べさせてみただけなんだけどなー」

「はっきり口に出してはいませんでしたけど、街で稀に見かけたときに、熱心に見つめているんです。責任とって、今度お中元でもなんでもいいので送ってくださいよ」

「とほほ...知り合いの水神様に頼んでみますねー」

 

 儀式が終わり緊張も解けると、自然と軽口もこぼれるようになる。維勢丸の好物に気づいて困っていたことについて、苦言を呈してみた。珍しく困り眉の茶々丸様を見て、笑みが浮かぶ。

 命を生むことに躊躇いはある、苦しみもする。それでも今は、新たな生命の誕生を喜ぶ気持ちが溢れている。この時間を、愛おしいと思わずにはいられなかった。

 

「じゃあ、私たちは帰りましょう、イツ花。維勢丸を長く待たせられないし」

「そうですね、では茶々丸様、また今度伺いますね」

「うん、待ってますねー。あ、そうだ灯栖さん」

 

 イツ花が転送の準備を始める。ふと、茶々丸様が私を呼び止める。イツ花と共に出口に立った私は、振り向いて茶々丸様の顔を見る。いつもの笑顔を浮かべ、赤子を抱く茶々丸様が、こちらに声を投げかける。

 

 

「いつも応援してまーす」

 

 普段と変わらない、間延びした声。

 直後、転送が始まって、気づくと見慣れた屋敷の中にいた。

 

「うふふ、茶々丸様らしいですね」

「...ええ、本当に、軽ーい人だわ」

 

 軽くて、ふわふわしていて、手を引かれた私の気持ちまで、なんだか浮いてしまうくらい。

 自然と、口元が綻んでしまうくらい。

 

 

 

 

 

 

 

 

補足

紗磋茶一族の交神について

正直小説で交神の設定を伝えきれた気がしないのでここで補足します。交神という行為について、ゲーム上では神様一覧から相手を選ぶ神様の一言を聞くイツ花が舞を踊る新しい子どもの顔がちらっと見える、という4段階で終わりです。実際のところ何が行われているのかは全くわからないし、各プレイヤー・一族によって設定が分かれます。

 

紗磋茶一族の場合は、

  1. 月初めに相手の神様を決める
  2. 天界に行って相手の神様に交神をお願いする旨を伝え、ご挨拶する
  3. 一度地上の屋敷に帰ってきて、家族全員で1ヶ月屋敷で過ごす
  4. 月終わりにもう一度相手の神様の元に行って、精神を統一させ子どもを作る。
  5. 赤ん坊姿の新しい一族が生まれ、約1ヶ月間親神の元で成長する

という設定になっています。つまり子どもを作るための直接的な行為は全くないし、子どもは非常に概念的な形で生まれます。

めんどくさくね?色々事情があって...

 

イツ花の舞は1ヶ月家族が心を一つにした結果のエネルギー的な何かを交神の儀として昇華する為と考えています。よくわからんけど。

あともう一つ、精神を統一させている時、子どもができる瞬間に一瞬親たちの脳内に「未来の子どもの姿」が映ります。子どもの未来そのものというよりは、この子は成長したらこんな姿になるよ、というのだけちらっと見えるって感じです。これはゲーム上で実際に生まれた子どもの顔グラが見えるのを落とし込んだ結果です。

この先の一族たちも交神の時にこんな感じのめんどくさい過程を踏まえているのだと思っていてください...

 

宇佐ノ茶々丸様の交神セリフについて

小説で長々と会話してもらいましたが、ゲームで実際に交神の時に聞けるセリフはたった一言。

茶々丸様の場合、

1回目の交神セリフは「お相手しまーす」 

2回目の交神セリフは「いつも応援してまーす

です。

実は例のチュートリアル交神の時は、交神セリフは聞けません。無言。

ただ、1018年5月の2度目の交神の時に聞いたセリフが、この「いつも応援してまーす」だったので、おそらく1度目の交神の時に「お相手しまーす」って言われたんじゃないかな、と思いました。

紗磋茶の交神システムの場合、確実に二言以上相手の神様と会話するはずなので、交神セリフはその会話のどこかで言われているのだろうと解釈しています。